うらきょっ!

第二十六話「半身を、見つけて下さい」

「何? 木更津永遠(きさらづ・とわ)の病気について知りたい? そう言われてもな。患者の情報をおいそれと外部に漏らす訳には──」
 言いながら、ひらひらと手を振ってみせる青年医師。うむうむ、実に分かり易い賄賂の要求だ。わたしが予め買っておいた缶コーヒーを渡すと、彼は改めて口を開いた。
「木更津永遠は……あの娘は、はっきり言って異常だ。あんな症例、俺は見たこと無いね」
 異常? 具体的には何が?
「何もかもがさ。聞けば、十年以上前からあの姿だったというじゃないか。確かに、成長を阻害する何らかのホルモンが大量に分泌されているのなら考えられなくもないが。あるいは先天的な遺伝子の病気か。俺達もその辺り詳しく検査してみたんだがね、彼女にはそれらの兆候は一切見られなかったよ」
 ふぅん、成る程ね。瑠璃ちゃんの話は本当だったんだ。まあ別に、彼女の話を疑っていた訳でもないんだけど。
「それだけじゃない。心臓の状態だって深刻なもんさ。普通だったら集中治療室にぶち込んで徹底的に投薬するなり電気ショックを与えるなりするところだ。実際、彼女は何度も死に掛けている。なのにしばらくしたらケロッと生き返りやがるんだ。訳が分からん。……それでまあ、あの娘がその辺ウロチョロしてても放置している訳なんだが……」
 オイ。今の発言は医者としてヤバくねーか? まあ、わたしには関係の無いことだけれども。
「それでも、危険な状態には変わりない訳だからな。今から六年前に一度、心臓の移植手術が行われたことがあった。俺も立ち会ったから、その時のことは良く覚えている」
 お、それは初耳だ。
「丁度、活きの良い心臓が見つかってな──まあ、彼女の母親の心臓なんだが。交通事故で死んだらしいんだが、幸いにも臓器に損傷は見られなかった。それで、そのまま腐らせてしまうのも惜しいと、急遽手術が決定したんだよ。
 その時手術を担当したのは有川有栖(ありかわ・ありす)。若年ながら当時の医学界において、彼女の右に出る者は居なかった。特に心臓外科手術の腕がピカ一でね。助っ人として来て貰ったんだ。……と、悪い。有川女史については触れなくても良かったか?」
 構わないわ。今は少しでも多くの情報が必要だから。
「俺も話してみて思ったが、あの人は医者というよりは学者に近い。何でも理屈で解決しようとするんだ。『白玉色(しらたまいろ)の脳細胞』とは、正にあの人のためにある言葉だろうな。……え、そんな言葉聞いたこと無い? 不勉強だな、君は。
 ともかく。そんな有川先生が、木更津永遠に興味を抱かないはずが無かった。彼女はあらゆる手段を用いて──それこそ人体実験ぎりぎりのレベルで、永遠の身体を徹底的に調べ上げた。その後で、俺達に向かってこう言ったよ。手術は必ず成功する、と。
 しかしだ。現実には、手術は失敗した」
 失敗? そんな色んな意味で物凄い人でも、上手くいかなかったの?
「ああ。……まあ厳密には、手術自体は成功したのかも知れなかったがな。
 異変が起きたのは手術の翌日。除去したはずの心臓は木更津永遠の身体に戻っていて、移植したはずの彼女の母親の心臓は、永遠の腕の中に在った。
 手術痕すら残っていなかった。正直なところ、俺には訳が分からなかったよ。母親の心臓を抱えて幸せそうに眠る永遠の姿が、現在でも頭にこびりついて離れない。
 結局、手術結果は失敗という形で世間に公表された。それを境に、稀代の天才医師と謳われた有川先生は医学界から姿を消したよ。それきり、彼女の姿は見ていない。
 俺の知っている木更津永遠の話はこれくらいだな。何、期待外れだって? 仕方ないだろう、俺だって他に多くの難病患者を抱えているんだ。いちいち永遠にばかり構って居られるか」
 吐き捨てるように言って、彼は歩き去って行った。昼間でも薄暗い病院の廊下には、わたし一人だけが残される。
「そっか。手術、失敗してたんだ」
 少なくとも、コーヒー一缶分の価値のある情報は得られた。恐らく、手術をしたタイミングが悪かったのだろう。六年前の時点で永遠ちゃんは既に、半欠けになっていたのだ。半欠けの時間は停止している。他人の心臓を移植したところで、すぐに元に戻ってしまうのだ。彼女が半欠けである限り、彼女を病気の苦しみから救うことはできない。
 そうなると、瑠璃ちゃんが言うように早めに殺してあげた方が、永遠ちゃんの為になるかも知れない。……そうなのかも知れないが。
「馬鹿。何考えてんの美沙樹。あんたは、永遠ちゃんを護ると決めたんでしょーが」
 独り嘆息し歩き出す。特に行き先がある訳ではない。他の病院関係者に訊いたとしても、これ以上の情報が得られるとは思えなかった。
 となると、移植手術を行った有川先生の話を聞きたいところだが。残念ながら彼女の行方は分からない。
「無いものねだりをしても仕方ない、か」
 わたしにできることは限られている。永遠ちゃんの傍に居ることと、彼女を敵から護ること。それから、彼女について少しでも多くの情報を入手することだ。
「…………」
 情報。第三者に訊いても得られないのなら、当事者である永遠ちゃんか、もしくは「敵」に訊いてみるしか無いだろう。
「やれやれ。面倒なことになったものね」
 確か瑠璃ちゃんはまだこの病院に入院しているはずだ。わたしは溜息を一つつき、以前一度来たことのある病室の方向へと踵を返した。
 瑠璃ちゃん、まともに相手してくれるのかしら……?

 風雲激闘編 第弐拾六話「瑠璃」

 この世界は歪んでいる。
 空には幾筋もの亀裂が走り、世界の外側が黒い顔を覗かせている。
 大地は死に絶え、強い毒素を持つ植物が気味の悪い花を咲かせている。
 そして人々の身体はぐにゃりと曲がり、疑問符の形で日々の生活を送っている。
 ──この世界は歪んでいるが、誰もその歪みに気付いていない。
 けれど、私は気付いてしまった。だから焦っている。誰も気付かないもどかしさに絶望すら感じながら、それでも何とか歪みを正したいと思っている。
 そんな私の前に、あの人は現れた。

 あの人は半欠けだった。
 半欠けとは、世界の歪みの根源とも言える存在。
 因果律の螺旋から弾き出された彼らは、もはや生死の概念に囚われることは無い。
 彼らは永久に在り続ける。決して、母なる世界と交わること無く。
 世界から見れば、彼らは完全なる異物。
 にもかかわらず、半欠けは「死ぬ」。死んだにもかかわらず、彼らは「生き返る」。因果律を超越し、世界の意思さえも無視して、彼らは「それ」を繰り返すのだ。世界へと還ること無く、世界の「生命」を利用して。
 言うなれば、彼らは寄生しているのだ。世界と完全に縁を切ったはずの彼らは、その実この世界にしがみ付いて甘い汁を吸い続けている。本来、そんなことが許されるはずが無い。半欠けの数に比例して、世界に掛かる負荷は大きくなっていき。やがて、致命的なまでの大規模な「歪み」が発生するのだろう。
 そうなる前に、半欠けを消滅させなければならない。私にはそのための力があった。だから私は、彼らを狩ることを決めたのだ。
 ……それなのに。私は未だに、あの人を狩れないでいる。

 あの人は泣いていた。
 寂しい。怖い。
 そして、助けて欲しいと。
 恥も外聞も無く、声に出して泣いていた。私にすがり付いて来た。
 私はあの人を狩る側の人間なのに。あの人は、そんな私にすら頼らなければならなかったのか。
 私はそれまで、半欠けの気持ちなど考えたことも無かった。彼らを人間として見ていなかった。憎むべき、倒すべき敵だと。そう自分に思い込ませて、狩り続けて来たのだ。
 事実、私が遭った半欠けの多くは人間としての在り方さえ保てていなかった。それはそうだろう。自らが死んだということ、そして未だに死に続けているという現実を、正気のままで受け入れられる者などそうは居ない。精神だけの異常ならまだ良い方。自らが創り出した歪みに飲み込まれてしまった半欠けは、人間としての原形を留めていなかった。常人には知覚できない周波数の咆哮を上げ、牙を剥いて襲い掛かって来る「かつて人間だったモノ」を、私は狩り続けて来たのだ。
 だから私は、彼らを化け物と認識していた。けれど、その認識が間違いであると知った。

 如月美沙樹。
 あの人との出逢いが、私を変えたのだ。

「だから私は迷っている」
 独り呟き、私は歪んだ世界から目を背けた。確かに、この世界は歪んでいて、その歪みは日を追う毎に深くなっている。半欠けがその一因となっているのも事実なのだろう。だが──だからといって、彼らを消せば全てが解決するのだろうか?
 私には迷いがある。だからこそ、今日まで木更津永遠を消せずにいた。彼女はまだ子供、抵抗する暇を与えず倒す自信はある。けれど、何故か実行には移せていない。
「迷う? 今更何を迷うと言うのです? 既に賽は投げられたのですよ? 皮肉にも、如月美沙樹の来訪が貴女の背中を押したのです。そうでしょう?」
 そんな私を、妖が嘲笑する。狐の妖怪、睡胡(すいこ)。
 全身包帯巻きの上逆さ吊りにされながらも、彼女は嗤(わら)っていた。まあ、彼女を逆さ吊りにしたのは私だけれども。
「考え事の邪魔をしないで下さい。……それと、いい加減その姿のままで居るのは止めていただけませんか。目障りです」
「あら? 貴女の大好きな美沙樹さんじゃないですか。喜んでいただけると思ったのですがねぇ?」
 そう。睡胡は、あろうことか美沙樹さんの姿に化けていた。恐らくはその姿なら怪しまれずに近付けると判断したのだろう。しかし残念ながら、彼女の変化は不完全なものだった──さすがに耳と尻尾がそのままでは誰でも気付く。どこで調達して来たのか、金属バットを片手に私へとにじり寄って来る彼女を、私は返り討ちにした後逆さ吊りの刑に処したのだった。
「はっきり言って不愉快です。私の美沙樹さんを汚さないで下さい」
「あら、可愛い。私の美沙樹さんを……ねぇ?」
 私が睨むと、睡胡は不敵な笑みを浮かべ。身動きの取れない状態であるにもかかわらず、何やらもぞもぞと包帯の中で手を動かし始めた。何だ? 彼女は何をしようとしている? 今更何らかの攻撃手段を隠し持っているとは思えないのだが。
「なら汚して差し上げますわ。この私の手で、ね? うふふふふ」
「手でって……ま、まさか貴女!?」
「さあ。今から貴女の美沙樹さんの大切なトコロに私の指を挿入致しますわ。とくとご覧あれ!」
「ま、待ちなさい!」
 今にも暴挙に及ぼうとする睡胡を、狼狽しながらも止めようとする私。無意識の内に、頭の中を様々な想像が駆け巡った。ええい、鎮まれ私の妄想……! そ、そりゃあ、見たくないと言えば嘘になるけどっ! で、でも、こんな形では──。
「あら? そんな上からの言い方で私がやめるとでも? それにその眼。今にも襲いかからんとするケダモノの眼ですわ。おお、恐ろしや。
 ……あっ……そんなことを言っている内に人差し指が……」
「ま、ままま待ちなさいってば!? お願いだからやめて下さい! 美沙樹さんの姿で破廉恥なコトしないで下さい! お願いしますっ……!」
 我ながら、情けない声が出た。悲鳴に近いというか、泣き叫ぶ乙女のような声。らしくない。こんな私の姿を美沙樹さんが見たら、きっと軽蔑されるだろう。
 でも仕方が無かった。目の前で美沙樹さんが汚される様を見せ付けられるだなんて、とても我慢できなかったから。
「お願い、ですか。良いですね。ようやくご自分の立場というモノを理解できたようで何よりです。
 ではこうしましょう。私を解放するのです。そうすれば、今すぐやめて差し上げますわ」
「くっ……貴女を見逃せというのですか。私の姿に化け、美沙樹さんの命を奪おうとした貴女を……!」
「そうですよ? 早くしなさい。
 ──あん……貴女がぐずぐずしているから、今度は中指が……あああっ……!」
「わ、分かりました! 分かりましたからやめて下さい!」
「うふふふふ。交渉成立、ですわね?」
 そう言って、にやりと笑みを浮かべる睡胡。ああ、何という屈辱だろう。仮にも退魔を生業とする者が、こんな卑しい子狐一匹にいいようにあしらわれている。こんな有様、一族の誰かに見られたら私の人生はおしまいだ。恥ずかしくて生きていけない。
 私が包帯を解くと、睡胡はふわり、と宙に浮かび上がった。そのまま、部屋の中を旋回し始める。余程嬉しかったのだろうか。
「ああ、自由って良いですわね。意味も無く破壊活動を行いたくなる衝動に駆られますわ。まあ、後々面倒になるのでやりませんけども」
「それは良かったですね。では約束通り、元の姿に戻って下さい」
「……約束? そんな約束、した覚えはありませんことよ?」
 くすりと笑って、睡胡は向かいのベッドに着地する。
「私が約束したのは、美沙樹さんのとある部位への挿入をやめる、ということです。折角なので、しばらく如月美沙樹として振舞うことにしますわ。ここ、元々は美沙樹さんのベッドなんですよね? 使わせていただきます」
「……何を企んでいるんですか?」
 彼女の意図が分からず、私は困惑する。今更彼女が美沙樹さんの姿をしても仕方が無い。私は騙されないし、勿論美沙樹さん本人には効果が無いだろう。意味があるとすれば、別の目的があるとしか思えなかった。
「企み? 企むも何も無いと思いますが。
 ──強いて言うなら。この姿なら、木更津永遠に近付くことも容易ってことくらいですかねー?」
「な」
 睡胡はさらりとそう応えて、大きく伸びを一つした。それから布団の中に潜り込み、猫のように丸くなる。
「霧島瑠璃さん。私達二人は、本来目的を同じとする者同士なのですよ? 敵対する必要性など皆無なのです。この間は獲物を横取りしようとして済みませんでしたね? けれどあれだって、いつまでも美沙樹さんを殺そうとしない貴女の態度に業を煮やした結果なんです。結果的に貴女を傷付けてしまいましたが、私には貴女に対する敵意はありません。貴女だってそうでしょう? 私達は仲間なんですから。同じ、半欠けを憎む者同士仲良くしましょう。協力しましょう。
 世界の歪みを正すため、木更津永遠を完全にこの世から消し去ってしまいましょうよ。私達二人で、ね? うふふふふ」
「…………」
 彼女がどんな表情をしているのか、私には分からない。同様に彼女にも私の顔は見えていないはずなのだが……シーツ越しに見透かされているような気がして、私は目を背けた。
 彼女の提案は、確かに魅力的だった。要は私が美沙樹さんを引き付けている間に、美沙樹さんに化けた睡胡が永遠を拉致する作戦だ。後はどうにでもなる。美沙樹さんは己の身は護れても、私達二人から永遠を取り返すことはできないだろう。プランとしては悪くなかった。
「折角ですが、結構です」
 けれど、私は断っていた。
「……何故? 私達は同志なのですよ?」
 怪訝そうに訊いて来る睡胡。正直、自分でも良く分からなかった。断る理由。あるとすれば、きっとそれは大義とはかけ離れた、ひどく子供じみたことなのだろう。
「だって。美沙樹さんに怒られそうですから」
「怒られるって、貴女」
「多分ですけど。美沙樹さんは、私が永遠ちゃんを消すこと自体に関してはそんなに怒らないと思うんですよ。でもね。自分の姿をした偽者が永遠ちゃんを騙すことに関しては──そして、それに私が加担することに関しては、物凄く怒ると思うんです。ひょっとしたら嫌われてしまうかも知れない。憎まれるかも知れない。
 いい加減嫌なんですよね、そういうの。少なくとも美沙樹さんとだけは、そういう関係になりたくない。だから私は、正々堂々と美沙樹さんを打ち破るつもりです」
「……馬鹿ですか貴女は。所詮如月美沙樹は敵なのですよ? 分かり合えるはずなど無い。分かり合えたとて、いずれ消し去らなければならない宿命。そんな関係に、何の意味が見出せましょう?
 けれど。ああ分かりました。貴女はそれでも良いというのですね? 付き合いきれませんね、全く。貴女のようなお馬鹿さんは、後悔して後悔して後悔しまくらなければ治りそうにありませんわ」
 呆れたように言って。睡胡は、それきり黙ってしまった。きっと、狐である彼女には一生分からないだろう。人間同士の友情というものは、目に見える形で現れるとは限らないのだ。友情。そうだ、美沙樹さんは友達だ。私に出来た、唯一心を許せる存在。それが美沙樹さんなのだ。そんな彼女を裏切るような行為だけは、決してしない。
「何や? 面白(おもろ)くないなー」
 だけど。世の中には、平気で他人の信頼を踏みにじる奴が居る。病室の入り口へと目を向けると、薄笑いを浮かべたあの女が立っていた。
「何の用ですか? 貴女を呼んだ覚えはありませんが」
「仮にも保護者に向かってその言い草は無いやろ。まあええけどな、別に。ウチとしてはアンタが仕事をキチンと果たしてくれればそれでええんや。
 しっかし、アンタが友情とは笑わせてくれるなや。まるで人間みたいやないの」
「私は人間です。貴女とは違います」
「くくくくく。まあそう粋がるなや。お仕事に支障が出たら困る。しっかり頼むで、『霧島瑠璃』殿」
 私が何を言っても、この女には何も通じない。そのことは、彼女に育てられた数年間で分かっていた。この女には、情とかそんなモノは存在しない。人の皮を被った鬼。復讐という大義を果たすためならたとえ親友でも利用する、悪鬼の如き存在なのだ。
「帰って下さい。こんな話、美沙樹さんに聞かれたら困るでしょう?」
「別にウチは構へんよ? どちらと言えば困るのはアンタの方やろ。折角の清純なイメージが台無しや。ま、どうでもええけどな。忙しいから帰るわ、ウチ」
 言うだけ言って、背を向ける彼女。そうだ、そのまま居なくなってしまえば良い。目障りだ、私の前から消えてなくなれ。
「……ああそうや。一つ大切なこと言うの忘れとった」
 なのに、彼女は足を止めた。余計な一言を言うために、私の方へ視線を動かして来る。彼女の眼が、私の身体をなぞる。蛇のように纏わり付いて来るその視線に、全身の毛が逆立った。この女はまた、私にとって不利益をもたらそうとしている。間違い無かった。
「紫蓮のな、『半身』が見つかったそうやで?」
「──っ──!?」
 ああ、やっぱり。この女は最低だ。
 今更、そんなことを言われても……手遅れ、だというのに。

「おはろー。瑠璃ちゃん居るー? ちょっと訊きたいことあるんだけどー」
 美沙樹さんが病室を訪れたのは、それからしばらく経ってからのことだった。その頃には睡胡は姿を消しており、私一人が出迎える形となった。
「何ですか? 私達は敵同士なんですよ? 永遠さんの警備をしていなくて良いのです?」
「まあまあ。敵とか味方とか、そんな細かいことは良いじゃない。どうせ一時的なものなんだしさー。
 それに。今の所永遠ちゃんの命狙ってるのあなただけだし。だったらあなたのこと見張ってればそれで事足りる訳よ」
 美沙樹さんは能天気にそう言いながら、私のベッドの脇に腰を下ろした。ああ、やっぱり知らないんだ。睡胡のこと、教えてあげた方が良いのかな?
「美沙樹さん。あのですね──」
「ずばり訊くわ。半欠けを人間に戻す方法って知らない?」
「…………」
 言いかけた言葉を遮られる。何だか先手を打たれたような気分だ。
「……もしも、そんな方法があるのなら。私は、美沙樹さんや永遠さんを消さずに済みますね」
「あー。やっぱそんな都合の良いコトって無いか。瑠璃ちゃんなら、何か知ってるかと思ったんだけどね。──ゴメン、邪魔したね」
 どうやら、私の返答を聞いて早合点してしまったらしい。美沙樹さんは足早に立ち去ろうとする。どうしよう。呼び止めるべきだろうか。教えてあげるべきだろうか。悩む私をよそに、美沙樹さんの姿はだんだん遠ざかっていく。ああ待って、行かないで──。
「……ああそうだ。一つ大切なこと言うの忘れてたわ」
 入り口の所まで行って、何かを思い出したように美沙樹さんは立ち止まった。あの女と同じ口調なのが気に入らないが、とにかく留まってくれた。
「瑠璃ちゃん」「美沙樹さん」
 声が重なった。互いの名前を同時に呼び合い、私は少し顔を赤らめる。美沙樹さんも面食らったようだった。
「ごめんなさい。どうぞお先に」
「あー、うん。じゃあお言葉に甘えて。
 あのね。明日さ、永遠ちゃんの誕生日なんだって」
「……はい?」
「そういう訳で。急遽誕生日パーティーすることになったから、よろしくね」
 あの。一体、何をですか? 私はそう訊き返したかったけれど、言葉にならなかった。この人は、仮にも敵であるこの私を、誕生日パーティーに呼ぼうとしているのか?
「くくく。やっぱ面白いカオになったわね。いいじゃないのたまには。あんたも終始緊張しっ放しじゃ疲れるでしょ? たまには、敵味方忘れて息抜きしなさいよ」
「そう言って、自分も休もうという魂胆ですか?」
「あは、バレた? いやー。いい加減眠たくってねー。半欠けって言っても疲れは溜まるのね」
 何でだろう。美沙樹さんが綺麗に見える。普段見せることの無い、ドキッとするくらいの爽やかな笑顔。この人、こんな表情も出来たんだ。知らなかった。
「はい。じゃあ次は瑠璃ちゃんの番ね。何かな?」
「……半身を」
「え?」
 今なら、言える気がした。美沙樹さんになら、告白しても大丈夫。そう、確信できたから。
「半身を、見つけて下さい」
 私は美沙樹さんを信じる。
 だから告げるのだ。
 私の知り得る、確かな真実を。

「それが半欠けを元に戻す、唯一の方法です」

 今日の日記:
 今回は瑠璃ちゃんがメインの話だったから、わたしの出番ほとんど無かったわね。たまにはこういうのも良いかもね、楽だし(ぉ
 にしてもスイコたん、可愛い子狐と油断してたらまた悪企みしてたのね。懲りないというか何と言うか。お仕置きが足りなかったかな? まあ所詮は畜生の浅知恵、恐れるに足らずって感じだけどねー。
 まあいいや。

 それでは、明日に続くのだっ(はぁと)

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