うらきょっ! 第二十四話「創るんだ。俺たちのゲームを」(後編) |
| 『れっでぃーすぅ、あーんど、じぇんとるめぇーん』 「──っ──!!?」 突然、頭の中に声が響いて来た。それもギンギンの最大音量。脳内で思いっきり鐘をぶっ叩かれたような衝撃に、わたしはその場でのた打ち回る。 それは春夏も同じなのか、苦しそうに頭を押さえて呻いている。包茎インポ君は……最初から気絶してるから良いか。 『ぼーいずぅ、あーんど、がーるずぅ。我輩の声が聞こえるで下衆か皆様方? 我輩、現在全国各地の地球人類に向かって呼びかけておりますで下衆。あーあー、マイクのテスト中。なぁーんてぇ、なぁーんてぇ』 耳障りなこの声。聞き覚えがあるなんてものじゃない。わたしが春夏に目で合図すると、彼女は頷きを返して来た。やはりそうか、この男は。 『耳の穴かっぽじって聴くと良いで下衆よ? 今から言うのは、この国の未来の総理大臣となる人物の名前なんで下衆からな。準備は良いで下衆かぁー? 我輩はカウパー小次郎。アダルトゲームメーカー「りーびんぐ☆ねすと」に所属する、今世紀最大の天才シナリオライターで下衆ぅ!!!』 自分で言ってて興奮したのか、語尾が裏返るキモ麻呂ことカウパー小次郎。キモさに磨きがかかって来たところで、そろそろこの脳内中継ともオサラバしたいのだが。 『──と、いきなり言ったところで愚かな君達には理解できないと思うで下衆。そこで親切な我輩、諸君が理解し易いよう、音声だけではなく映像も用意してあげたで下衆よ。れっつ、TVショウッッ』 「…………」 どういう仕掛けなのか分からないが、カウパー小次郎の宣言と同時にテレビの電源が入った。電波ジャックとか、そういうレベルの代物ではないのは確かだが。 モニターには、こちらに向かって手を振っているカウパーの姿が映っている。どこだここは? 白い雲が、彼の足元を流れていく。雲海の中? だとすると、相当な高度だ。 『ここがどこか分かるで下衆か? 分かるはずないで下衆な。今我輩が立っているのは、キミタチ愚民には決して辿り着くことのできない神の領域。 天上世界・タカマガハラなんで下衆から!』 「ぶぷっ。テラ厨二病乙」 ごめん、思わず吹いちゃった。だって、あんまりにも、ねぇ? キモ麻呂らしいと言えばらしいんだけど、これはさすがに笑わざるを得ない。 「ミサキ、気ぃつけや。ウチらの声、多分聴かれとるで」 一方の春夏は、至極真面目な顔をしていた。心なしか、青ざめているようにも見える。 「えー? だってー」 「予め言うておく。奴らを侮らない方がええよ。ナリはアレでも、言ってることは全て真実や」 「……高天原も?」 「ウチはそれで痛い目を見て来た。あんたもそうやろ、ミサキ?」 「…………」 そうだった。キモ麻呂は、喫茶店「Choko De Chip」の皆を躊躇無く射殺したのだ。アレはわたしが知っているキモ麻呂ではなかった。カウパー小次郎。わたし達の敵。長生きしたければ、敵の戦力を過小評価しない方が良い。 『あー? 皆信じてないで下衆なぁ? 我輩のことが信じられないなら今すぐ首括って自殺するが良いで下衆よ。誰で下衆か、厨二病乙とか言ったの。後でシメるで下衆よ?』 うひー、マジで聴かれてたんかい!? 驚くわたしを嘲るように、カウパーはせせら笑ってみせる。 『物分りの悪い愚民ども。そんな君達に、我輩が招待したスペシャルゲストをお見せするで下衆! へいかもん、べいべー!』 ああそうだった。キモ麻呂って昔から英文の発音苦手だったんだ。今も上達してないなあ、ちっとは練習しろよ……などとわたしが思っていると。 カウパーの後ろから、誰かが姿を現した。彼と比べると、随分と小柄な身体。まるで子供のような。ってか、この服どこかで見た覚えが……。 『皆さんご存知で下衆よなぁ? この御方こそこの国を治めるにまこと相応しい御方。神皇陛下で下衆』 「マジデツカ」 そ、そういえば。色々あってわたし達がドタバタしてた間に、神皇様が京都に移籍(違 したりしてたんだっけ。普段ニュースとかほとんど観ないから、春夏に言われるまで知らなかたアルよー。 神皇様はいつもと同じ、純白の宮袴(みやばかま)をその身に纏っている。その出で立ちと雲海の情景は見事にマッチしていて、実に神秘的だ。 あーでもあの服、神皇様の体型に合ってないんだよね。成人サイズに設計されてるからぶかぶかで、そんな衣装を着てよちよちと歩く彼の姿はマニアの間で高く評価されていた。かくいうわたしも、男の子じゃなかったら手を出していたかも知れない。まあ、会う前に銃殺されそうですけども。近衛大隊っつったっけ? 人気アイドル歌手の親衛隊みたいなのが居るんでしょ、確か。 「先手を打たれてもーたな。奴ら、これ以上無いくらい強力なスポンサーを手中に収めた訳や。この先、厳しい戦いになるで」 「……はるなつー」 唇を噛み締め、呻くように呟く春夏の表情は暗かった。わたしにはまだ、彼女が味わっている程の絶望感は無い。正直なところ、話が大きくなり過ぎてついて行けないのだ。現実味が無いというか。ぶっちゃけ政治とか興味ねーし。 でも。きっとこれから、嫌でも実感することになるのだろう。わたしとて無関係な訳ではないのだ。第三者の振りをしたところで、向こうには見破られてしまう。 そうだ。最初からカウパー小次郎は、わたしを標的にしてきたんだ。 『国民よ。朕が第百二十五代、神皇である』 神皇陛下はカウパーの横に立ち、自ら名乗った。今更言われなくとも誰でも知っているその名。しかしそれを紡ぐは、以前とはまるで雰囲気の異なる少年だった。以前の、全国民が萌えた(?)舌ったらずな口調とは全く違う。相変わらずお面を着けているため、その素顔は見えないが。少年は今、まさしく神皇としてわたし達の前に現れたのだ。 『だが、皆も周知の通り、今や神皇の名は地に堕ち、何の意味をも成してはいない。この国の政府は全権を遥か欧州の一帝国に委ね、この国自体もまた、自らの名を喪ってしまっている。この国は今、滅亡しているも同じ。かつての戦争が、この国から全てを奪い去ったのだ。誇りも、希望も、勇気も……そして歴史さえも。 国民よ。お前達の国の名前を知っているか? 神聖ドイツ帝国極東区などと冠するようになる前の、本来の名を覚えているか? 朕は今、ここに宣言する。かつて日出ずる国と謳われた、神国・日本の復活を。そしてその実行手段としての、現政権の完全なる破壊と、新たなる秩序の実現を! この国は生まれ変わる。皆がかつての誇りを取り戻し、日本国民として幸せに暮らせる世界へと。朕自ら神々の代行者として旧世界を葬り去り、新世界を創造するのだ』 それは、一方的な宣告だったが。不覚にもわたしは、少年の話に引き込まれてしまっていた。今までの神皇様とはまるで違う、異様なまでの求心力。彼はきっと、今初めて自分の意志で発言しているのだろう。今までの、予め用意されていた台本をただ読むだけの神告には無い説得力。すげぇよこの子。マジで十歳なの? 『朕に賛同する者は声高らかにこう唱えよ。神権復興(ヤンマーニ・ヤンマーニ)』 「やんまーに・やんまー……」 「ミサキ、あかん!」 「げぶぁっ!?」 強烈なビンタが、わたしの頬を襲った。放ったのは、まさかの春夏! 「いきなり何すんのよはるなつー!? 親父にもぶたれたこと無いのにっ」 「言うと思った! けどあかんよミサキ! それを言ってもーたらあんた、完全に取り込まれてまうで!?」 「……と、取り込まれる?」 「せや。さっき神皇はウチらに向かって暗示を仕掛けて来たんや。それも極めて悪質な。キーワードを言ったが最後、自我を失い奴らの操り人形と成り果ててしまう……ここまでいくともはや呪いの領域やな。 ミサキ。神皇の言う新世界は確かにウチら皆の幸せに通じる、魅力的な国なのかも知れん。けどな、その裏で奴らが暗躍していることを忘れたらあかんで? 一度でも気ぃ抜いてもーたら、それでジ・エンド。文字通り一巻の終わりや」 「…………」 こ、こえええええ。春夏が叩いてくれなかったら、今頃わたし、神皇の兵隊になっちゃってたのか。何と言う凶悪な暗示、まさしく呪いと表現するに相応しい。 『ヤンマーニ・ヤンマーニ。いやー、実に素晴らしい言葉で下衆な。神皇陛下の御心を体現するにまこと相応しいで下衆。 しかし、で下衆な。日本人としての自覚を取り戻すには、現政府を解体するだけではまだ足りないで下衆。それ以上に厄介な代物が、この国の住人達を深く蝕んでいる。 それが何か、分かるで下衆かな?』 神皇陛下と入れ替わるように、発言を始めたのはカウパー小次郎だった。こいつ、今度は何を言い出すんだ? もういい加減、消えて欲しいんだけど。 そう思っていた時期が、わたしにもありました。 『──成人向けゲーム。俗に言う、エロゲーで下衆』 彼が次に放ったその一言に、わたしは思わず絶句していた。 こ、ここでそれを言うのか、この男は……。 『良いで下衆か? かつてエロゲーは、その名が意味する通り成人向けに製作されたものであり、コアなファンこそ居たものの、基本的に一般人が手にすることは無いもので下衆た。 しかしながら昨今。インターネットの普及に伴うメディア全体の規制緩和の声と共に、幾つかのエロゲーはコンシューマー向けに移植され、あまつさえテレビアニメ化までされるようになったので下衆。これは、一般大衆とエロゲーの距離が急速に縮まったことを意味するで下衆。我々エロゲメーカーとしては大いに喜ぶべきことであるはずのこの事態。 ところが、手放しに喜ぶ訳にはいかない現象が起き始めたで下衆。一部エロゲーの内容を模倣した残虐極まりない殺人、強姦、その他諸々の凶悪事件の多発。その多くは、本来エロゲーに触れる機会の無いはずのティーンエイジャーによる犯行で下衆た。 お分かりで下衆かな? 今やエロゲーは君達国民の一人一人にとって、無縁なものではないので下衆。誰もがエロゲーを起因とする犯罪の加害者、或いは被害者と成り得るので下衆。勿論、他のメディア、漫画や小説による影響もあるので下衆が……エロゲーのそれと比べると影響力は遥かに小さい。何故か? 一つは、視覚的要素の大きさ。もう一つは、エロゲー自体の規制が元々緩いことによる内容の過激化で下衆』 熱弁を振るうカウパー小次郎。どうでも良いけどこいつ話長いよなぁ。言いたいこと一杯あるのは分かるけどさ。もっと簡潔に言ってくれないものかねぇ。 『我々は常々、エロゲーとは人の心を豊かにするものであり、価値観の多様性を生み出す一種の起爆剤と考えてきたで下衆。下衆が、中には間違った方向に開発される方々も居られるようで下衆な。それは仕方の無いことで下衆。人間とは、神の如き完璧な生き物ではないので下衆から。 しかし、神皇様の唱える新世界に、そんな人間が発生してはいけないので下衆。ならばどうすれば良いのか。至極簡単な話で下衆。人の精神に悪影響を与える有害なエロゲー及びエロゲメーカーを排斥し、我々の作品に代表される良質なエロゲーを広めれば宜しいので下衆。 それではここで、代表的な有害ゲームの一部を抜粋し、お見せ致しまSHOW!』 カウパーが言い終わった瞬間、画面が切り替わった。にわかに聞こえ始める悲鳴と、喘ぎ声の数々。 「これ。エロゲーの、プレイ画面? っつーか」 「……ウチらが作ったゲームやね。ご丁寧に、陵辱シーンのみで編集されてるわ」 確かに、ナイトウィンドの作品が時系列順に紹介されていた。残酷な殺人シーンとか、無慈悲な陵辱シーンとか。よりによって、お茶の間の皆様方が不快な思いをするであろう場面ばかりを抽出して繋げているのだ。何と言う悪意に溢れた編集なんだろう。……つーか、十八禁ゲームのプレイ画面をテレビで流すなよ……。 しかし、ここまで露骨なナイトウィンド批判をして来るとは思わなかった。カウパーの奴、そんなにわたし達が嫌いだったのか。営業妨害で訴えてやろうか。まあ、わたしはまだナイトウィンドの社員でも何でも無いんだけど。 ひとしきりゲームの紹介が終わった後、画面は再びカウパーの姿を映し出す。 『いかがで下衆? こんなゲームが今、世に溢れているんで下衆よ? 事態は君達が思っている以上に逼迫しているので下衆。一刻も早く、このような有害ゲームはこの世から排除した方が良い。 我々は早速行動に移ったで下衆。これらのゲームを製作した会社の社長と、その一味の女を拘束し、犯した罪を悔い改めさせることに成功した下衆。 もっともその結果、彼女達は焼身自殺してしまった訳で下衆が……』 更に画面が切り替わった。 「…………」 見慣れた喫茶店が燃えている。その中に、何人もの人達を抱えたままで。 燃え尽きていく店の様子を鮮明に映し続けながら、カウパーは最後にこう締め括った。 『このような悲劇を、もう二度と繰り返してはならないで下衆。 我々は神皇陛下と共に、より善いエロゲーの製作と、不浄なエロゲーの排斥を徹底していくことをここに宣言する下衆。 愚民達よ。今こそ、我らと共に新世界への道を築き上げていく時。神皇陛下の名の下、立ち上がれ!』 ぷつん。 言うだけ言って、テレビの電源が切れた。 「ふぅ」 溜息をつき、壁にもたれかかる春夏。 「これで分かったやろミサキ。奴らはウチらを本気で潰すつもりなんや。いや、ウチらだけやない。これから何十何百ものエロゲメーカーが、神皇の名の下に弾圧される。誰かが奴らを止めなければ、この世界は終わるんや」 疲れたように、彼女は呟き。突っ伏すように倒れて、動かなくなった。 「ほなけどもう。ウチ、どうしたらええのか……何やアレ、反則やないの……」 「はるなつー」 わたしには、彼女に掛ける言葉が見つからない。敵は、あまりにも強大になり過ぎた。もはや彼ら以上のエロゲーを創るとか、そういう次元の問題ではなくなっているのだ。実際のところ、わたしにもどうしたら良いのか……。 「──創ろう」 わたし達が諦めかけた、その時だった。 それまで無言で佇んでいた第三者が、初めて口を開いた。 「包茎インポ君?」「サトー君?」 「創るんだ。俺たちのゲームを」 どうして彼が、そんなことを言ったのかは分からない。 ただ彼は、いつに無く真剣な表情でわたし達に告げたのだ。 ゲームを創ろうと。 わたし達にしかできない、ゲームを創ろう、と。 今日の日記: あれ? この話って誰が主人公でしたっけ?(死) 何かここに来て、包茎インポ君が主役みたいな感じになって来てるような……ま、まさかねー(汗) すぅー、はぁー。 よし、気を取り直したところで。 それでは、明日に続くのだっ(はぁと) |