うらきょっ! 第十六話「……変態(かわ)るわよ?」 |
| 愛と性戯のセーラー服美少女天使! じぇのさいだー・るーたんただ今参上! 男共に死を! 女の子には甘美なるお仕置きを! 「あぁ〜ん! お姉様ぁ、もっと虐めて下さいましぃ〜」 天が呼ぶ! 地が呼ぶ! あの娘が呼ぶ! 悲鳴の上がる所るーたん在り! 鞭を片手に、今日も衣を裂きまくる! 「当然よねー? おーっほっほっほほ!」 愛と性戯のセーラー服美少女天使! じぇのさいだー・るーたんここに参上! 「……変態(かわ)るわよ?」 ちゃんちゃかちゃっちゃーん。 「──って」 朝から変な夢を見た。るーたんて誰? てゆかわたし、昨日ちゃんとオナニーしたっけ……? そういえば何だか、妙に股間が疼く。それがあの夢の原因だろうか? 「思いっきりしてたじゃないですか。あ、あんなに……声まで出して」 などとぼんやりとした頭で考えていると、いきなり声をかけられた。少し甲高い、可愛らしい声。 「はわっ!? あ、あなたはえーと……るーたん?」 「その呼び方は止めて下さいって言ったでしょ!? 私のことは瑠璃(るり)と呼んで下さい。 それと。できればもう少し、同室の人間にも配慮してくれると嬉しいです」 声の主は、中学生くらいの女の子だった。パジャマを着ているから、実際のところは分からないけど。ちょっと怒ったように、何故か頬を赤らめて彼女は口を尖らせる。 うーん、マーベラス。はい、覚醒しましたよー。 「状況整理。ここは病院の一室で、わたしは不良にぶっ刺されてここに担ぎ込まれた。でもそんなことは全く覚えていない。何故ならわたしは記憶喪失、自分の名前すらも分からない悲劇のヒロイン!? なのだから! それで瑠璃ちゃんとやら! 今からわたしがする質問に、正直に答えて頂戴! おーけー?」 「な、なんですかいきなり!? い、良いですけど」 「ずばり! 昨日わたしがしてるのを見て、あなたも興奮したわね!? ねぇ、ずばりそうでしょう! 誤魔化そうとしても無駄よ。わたしは鼻も耳も人一倍利くんだから、匂いと音で分か──げふぁ!?」 はい、沈黙させられましたよー。そりゃあ誰だって、後頭部を乱暴に殴打されちゃあ昏倒の一つもしますって。ねぇ? ……って、ああ。ここは「一体誰の仕業!?」とか言って突っ込んであげるべき場面なのかしら。痛過ぎてとても口を開ける状態じゃないんですけど? 「ごめんなさいね、霧島(きりしま)さん。ウチの馬鹿が、大変ご迷惑をおかけしているみたいで」 いかにも申し訳無さそうに、そう言って瑠璃ちゃんの頭を撫でるのはわたしの相方。核戦争が起こりかねない脅威的なバストの持ち主(胸囲だけに)、神堂薫子(しんどう・かおるこ)たんである。 「相変わらずの変態ぶりだね、ミサキちゃん? そんなに、撲殺して欲しいの?」 瑠璃ちゃんの頭を撫でる手とは逆の手──つまり右手には、たった今わたしを限り無く死に近づけた凶器のメリケンサックが、ぎらぎらと鋭く光っている。それを見せ付けるようにして、薫子はわたしを脅迫してきた。そ、それが怪我人に対する態度か!? てゆか、病院で怪我を増やすことになるとは思わなかったよ。薫子、恐ろしい子! 「だ、だって。暇だったんだもん。ここ、娯楽も何も無いしさ。オナニーでもするしかないじゃんよ? ねぇ?」 「そ、そこで私に振らないで下さいっ」 まだ痛む頭を擦りながら、わたしが瑠璃ちゃんに話しかけると。何故か顔を真っ赤にして、瑠璃ちゃんは俯いてしまった。うむ、純情で良し! 「……まだ反省してないみたいだね? じゃあそろそろ楽にしてあげるから、歯を食いしばってくれるかなぁ?」 「ちょ、ちょっと薫子、本気? 命の恩人に向かって、それは無いんじゃないかなぁ?」 「それはそれ、これはこれ。助けてくれたのは感謝してる。うん、だからこそミサキちゃんはわたしがこの手で、更生させなくちゃいけないんだよ。文字通り、生まれ変わってもらって……ねっ」 「うわあああああっ!?」 凄惨な笑みを浮かべて殴りかかって来る薫子(コエー!)に向かって枕を投げつけ、わたしはベッドから飛び降りた。この状況は極めてマズい、何しろこちらは五体不満足! 畜生、刺されたお腹がやけに熱いぜっ! 「上等だ、表に出やがれ! ──って、一度言ってみたかったんだよね!」 今のわたしに、正面からハイパーモードの薫子を打倒する力は無い。ならばせめて、地の利を活かした戦い方をしなければ。思考する暇もあらばこそ、呆然と見守る瑠璃ちゃんや他の患者さん達の間を駆け抜け、わたしは廊下へと転がり出た。必殺、松葉杖ドリフトぉ! 「甘いよっ」 間髪入れず追いついてきた薫子たんのキックが炸裂! 松葉杖の支えを失い、わたしは転倒し──かけたところで、踏ん張った。 「……え?」 「ふははははっ! 実は松葉杖なんて必要無かったのさ! てな訳でグッバイ薫子!」 そう、全ては演出、全てはフェイク! 松葉杖を用意すれば、そこに攻撃が集中するであろうことは百も承知! こんなこともあろうかと、予め他の患者さんのを拝借しておいたのだ! 「くっ! いい加減に更生してよね、ミサキちゃん!」 「あっかんべー! 冗談じゃないわよ!」 松葉杖を投げつけ、それがメリケンサックの一撃で叩き折られるのを確認してから、わたしは走り出した。何人かの看護婦さんに「廊下は走らないで下さい」と注意されたが、止まればわたしの人生が終わってしまうので構わず走り続けた。薫子たんも同じように注意を受けたはずだが、変わらずに追って来る。本当、いい根性してるわこの娘……! しかし、これからどうしたものか。勢いで走り出したは良いものの、実のところ勝算は全く無い。そんなに広くない病院だ、やがては追い詰められ、そして。 「あんまり、考えたくないわね、その先は」 鬼と化した今の薫子には、言葉による説得はまるで意味を成さないだろう。そもそも言葉が通じないのだ。逃げ場が無く、説得も無駄。なら、力で屈服させるしか手は無い。しかし、彼我戦力差はあまりにも絶望的。ならば、どうしたらいい? 考えるまでも無い。 鬼退治と、いこうじゃないか。 「追い詰めたよ、ミサキちゃん」 普通病院と言えば、どこからでも患者を搬入できるよう、出入り口が随所に設けられているものだが。ここの病院は変わっていて、あちこちに袋小路が存在していた。まるで患者を、ここに閉じ込めるのが目的であるかのような基本設計。そんな袋小路の一つに、現在わたしは追いやられている。恨むのは、こんな病院を建てた院長か。否。 「もう逃げられないよ? わたしが今から、更生させてあげる。覚悟はできてるかな?」 「あー。まあ、お手柔らかに頼むよ」 薫子はメリケンサックと、どこで手に入れたのか手術用のメスを装備している。成る程、わたしをバラす準備は万端ということか。対するこちらには、何の武器も残っていない。 「ふふふ。怯えてるミサキちゃんのカオ、すっごく可愛い。ぞくぞくしちゃうな」 「……そいつはどうも。あんたもいつになく活き活きしてるわよ。キモいくらいにね」 何だかすごくこの状況を楽しんでいる薫子に、そんな捨て台詞を吐いて。わたしは、薫子の方へと歩き出した。 「どうやら、観念したみたいだねぇ。ふふふ」 確かに第三者の目から見れば、わたしにはもう何の策も無いように思えるだろう。だけどわたしは諦めた訳ではなかった。むしろ逆。わたしは勝利に向かって、着々と今も歩み続けているのだ。 「かおるこ」 手を伸ばせば届くくらいまで近づいて、わたしは足を止めた。勝利を確信し、嗜虐的な笑みを見せる彼女の名前を呼ぶ。 その名前さえ、彼女から告げられるまで、思い出すことができなかった。 「何? 何か言い残したいことがあるんだったら──」 だから、これは贖罪でもある。 「ごめんね、薫子」 「──え」 彼女の身体を抱き締め、わたしは耳元で囁いた。 「愛してる。もう二度と、あなたを離さない」 「ちょ、ちょっと、ミサキちゃん!? 何するの、わたしは」 「殺したければ殺すがいい! だけどわたしの愛は変わらない! 死してなお続く、永遠の愛を誓うわ、薫子!」 「なっ!? ……んうぅっ……!」 薫子の口を、わたしの口で塞ぐ。今のわたしに残された、唯一の武器。それは薫子への愛。力で屈服できないのなら、わたしは愛で屈服させよう。そうだ、これで止められないようなら、わたしには薫子を愛する資格が無いということだ。だとしたら、生きている意味は無い。薫子に殺され、ここで力尽きるのみだ。 だけど。振り下ろされるはずの鉄槌は、いつまで経ってもわたしを襲うことは無かった。 鬼は去った。残されたのは、この世でたった一人、わたしが好きな女の子。 「ごめんなさい、×××ちゃん」 悲しげな呟きが、彼女の口から漏れた後。 わたしの腹部を、言葉にできない猛烈な痛みが襲った。 ああ、そういえば。この娘、メスも持っていたんだっけ。女の子だけにメスを挿入、なんちゃって。あはは、可笑しいなぁ。 何でわたし、こんなコントみたいな死に方してるんだろー。 『大丈夫。あなたは死なない』 そう言えば。あの時も、今みたいな状況だったのだろうか。 あの時。薫子と初めて会ったあの時に、わたしは彼女に絡んでいた不良達にボコボコに殴られ、そして──致命的な、傷を負わされたらしい。薫子が救急車を呼んでくれなかったら、わたしはその時死んでいただろう。いや、実際半年以上、わたしは仮死状態にあったらしい。それだけ酷い怪我だった所為か、記憶の大半も無くなっていて。 自分が誰なのかさえ、分からなくなっていた。 気付いた時にはこの病院のベッドの上で、大勢の人達に取り囲まれていた。ほとんどは医者や看護婦で、その中にたった一人、薫子の姿を見つけた時には涙が出て来た。何故かは分からない。誰なのかも分からない状態で、わたしは薫子に手を差し伸べていた。 友達が、一人できた。 彼女はわたしを「ミサキ」と呼んだ。 だから。その時からわたしは、ミサキとして生きていくことになった。 『死神にすら、嫌われてしまったから』 薫子の手から、メスが落ちた。そこには血の一滴も付いてなくて、それで彼女が刺した訳では無いことが分かった。 ああ、そうか。あんまりにも激しく運動し過ぎたもんだから、塞がりかけていた傷口が開いちゃったんだ。得心し、わたしはその場に崩れ落ちる。 「ミサキちゃん!?」 悲鳴を上げ、泣きじゃくる薫子に。わたしはあの時と同じように、手を差し伸べた。その手を、薫子は取ってくれた。なら、きっと大丈夫だ。わたしは、死なない。 「薫子たんの、バージンを……いただくまでは、ねっ……!」 「……ごめん、ミサキちゃん。殺しても更生できそうに無いよ、あなた」 外出許可が下りたのは、それからしばらくしてのことだった。 これからは病院を拠点にしつつも、外の世界を自由に散策することができる。尤も、わたしには入院以前の記憶が無いから、特に行く当ても無かったりするんだけど。それでも一日中病室に閉じこもっているよりはずっと良い。 「上手くいけば、記憶も戻るかも知れないし、ね」 「そう上手くいくかなぁ? わたし、何だか不安だよ」 わたしが外に出ると言うと、本来なら一番喜んでくれるはずの薫子は、何故か顔を曇らせた。ホント、心配性なんだから。 「ま、収穫無かったら直ぐに戻って来るよ。そんなに心配なら、あんたも一緒に行く? この年齢になって保護者同伴なんて、ちょっと笑えて来るけどね」 「ううん、わたしはいいよ。今日は、約束があるから」 「へぇえ? わたしを差し置いて約束って? 何、彼氏でもできた訳?」 それはさすがにショックだなーと思いながら、わたしが訊くと。薫子は微笑んで、何故かわたしの顔を見つめた。 「お友達に会いに行くの。大切な、お友達に」 「ふぅん? 大切ってどれくらいよ? ……まさか、わたしよりも……?」 「うーん、同じくらい、かな?」 「むー」 「あは。ミサキちゃん拗ねてる。かわいー」 くそう。何だか悔しいな。わたしの薫子たんが、他の誰かと待ち合わせしているだなんて。何か、嫌だなぁ。 ……そうだ。いいこと、思いついた。 「じゃあわたし、そろそろ行くね」 「ん。いてらー。お土産ヨロシク! てゆか、今夜はキスだけじゃ済まさないから早めに帰って来てよねー」 「あはは。それじゃあとりあえず、いってきます」 薫子はいってきますのキスをして、病室を出て行った。唇にではなく、頬っぺたに。彼女からする場合はいつもそうだ。決して唇を合わせることは無く、それがわたしには何となく気に入らなかった。今日は特にそう。 もしかして他の誰かともやってるんじゃないかと思うと、居ても立ってもいられなくなり。わたしは、彼女の後をそっと追った。 どうせ外出しても目的が無かったんだ。この際、薫子の浮気現場を押さえる結果になったとしても構わない。わたしは真実を知りたかった。彼女の言う「大切なお友達」が何者なのか、薫子と本当はどういう関係なのか。どうしてそこまで気になるのかは分からないけど、でも。 「何なのよ、この妙な胸騒ぎは……もうっ!」 沸き立つ感情の波を抑えながら、わたしは独り毒づいていた。 さあ。今こそ門を抜けて、外の世界へ。 『そうはさせませんことよ! とぅっ』 愛と性戯のセーラー服美少女天使! じぇのさいだー・るーたんただ今参上! 男共に死を! 女の子には甘美なるお仕置きを! 「あぁ〜ん! お姉様ぁ、もっと虐めて下さいましぃ〜」 天が呼ぶ! 地が呼ぶ! あの娘が呼ぶ! 悲鳴の上がる所るーたん在り! 鞭を片手に、今日も衣を裂きまくる! 「当然よねー? おーっほっほっほほ!」 愛と性戯のセーラー服美少女天使! じぇのさいだー・るーたんここに参上! 「……変態(かわ)るわよ?」 ちゃんちゃかちゃっちゃーん。 「………」 わたしが病院の外に一歩足を踏み出した、その時。 悪夢は、正夢となって現れた。 ×××の日記: 何だか知らんがとにかく良し! ──とはいかないのが現実ってもんだよね。はぁ。 薫子を追うわたしの前に出現した、謎の黒い影! 新たなる敵? それとも味方? 戸惑うわたしに、次回笑いの神が降臨する! ……のか? それでは、明日に続くのだっ(はぁと) |