「お嬢様は侵略者×魔法少女(仮)はるか」勝手にミックスお正月短編
お年玉騒動記

(1)

 前地球人類の皆様、新年明けましておめでとうございます。
 新しい年というのは新しい活力を与えてくれるものですが、わたしに限っていえば、新たな一年をまたお嬢様と一緒に暮らさなくてはならないということでありまして、控えめにいって……生き地獄?

『……ちょっと』
「なんでしょうお嬢様。表現が控えめすぎましたか?」
『? 何の話をしているのよ。この状況は一体どうなっているのかって聞いているのよ』

 お嬢様の口に付けられた翻訳機(ただしお嬢様の口は股間にあります)から聞こえてくる声は、こんな状況にもかかわらず乱れのないしっかりしたものでした。
 ええまあ、冒頭から優雅に新年のご挨拶などしてしまいましたが、実はいま、わたしとお嬢様は見知らぬ街角を全速力で逃走中なのでした。

 ……それにしても。
 わたしが冥土としてお仕えするお嬢様は地球上の支配者、現人類たるクトゥール人なのですが、その八本の足をうにゅるうにゅると器用に動かしながら猛スピードで走っている様子は、横目で見ているだけで思わずめまいがしてくるほどです。
 きっと今夜の夢はお嬢様大旋回の巻に違いありません。とびっきりの悪夢です。

『貴女、気づいているの?』
「はい? なにがですか?」
『さっきから、クトゥール人の姿を一人も見ないんだけど』

 そのことはわたしもおかしいと思っていました。
 先ほども言ったように、現在の地球はクトゥール人に支配されていますので、そこらで石を投げればクトゥール人に当たりますし、槍を投げればクトゥール人の連刺しの一丁上がりです。
 なのに、ここではそのクトゥール人の姿を全く見かけないのです。
 ええまあ、それはそれでものすごく精神衛生に良いことなのですが、隣で八本足大旋回しているお嬢様のおかげでプラスマイナスゼロといったところでしょうか。

『それに、やたらと前人類が多いと思わない?』
「そうですね。いま追いかけられているのもその前人類にですし」

 なぜわたしとお嬢様が全力逃走中かというと、ずばり追いかけられているからなのですね。非常にシンプルでわかりやすい理由です。
 ですが、前人類の人たちがなぜわたしたちを追いかけてくるのかがわかりません。
 クトゥール人が支配者であることはもはや動かしがたい事実です。そのクトゥール人に前人類が危害を加えるようなことは考えられませんし、もしそんなことがあればどうなるかは考えたくもありませんが、おそらくみな消化されて終わりでしょう。
 なのにわたしたちは追いかけられているのです。おもに紺色の制服らしきものを身につけた前人類たちに。それ以外の前人類は遠巻きにしてわたしたちのこと指さし、ざわざわと騒いでいます。
 その姿はまるで……そう、クトゥール人のことを初めて見たかのようでありました。

『あのね、ちょっと考えてみたんだけど』
「はい、なんでしょうか」
『私たちはもしかしたら、別の並行世界に紛れこんでしまったのかもしれないわ』

 お嬢様は、その姿からは想像がしにくいですが、非常に聡明なお方です。
 わずかこれだけの事柄から、そんな結論を導き出してしまうほどに。

「……ていうかジャンルが違いますお嬢様。そんな姿でSFとか語られても反応に困ります」
『どういう意味よ』
「いやそのままの意味ですが。やはりお嬢様が出演すべきはホラーだと思います」
『……ホラーは苦手なのよ』
「なぜ」
『…………だって怖いじゃない』

 ……どの面下げてそんなセリフを言いやがりますか。どう聞いてもギャグです本当に(ry

「わかりました。百歩譲って並行世界とかいうSF的展開を認めたとしましょう。じゃあなんでわたしたちがそんなところに飛ばされなければいけないんですが」
『そりゃあまあ…………』

 お嬢様はそういうと、全力疾走しながら器用に視線をそらします。
 わたしもいいかげん慣れてきたのか、近頃はお嬢様の表情を見分けることができるようになってきました。どうやらこれは困り顔のようですね。ふひひ、お嬢様の困り顔ゲット。
 ……これっぽっちもも嬉しくないのは何故でしょうか。

『――原因は、“あれ”でしょ』
「…………“あれ”ですか」

“あれ”とお嬢様が呼ぶものには、わたしも心当たりがありました。
 まあそんなわけでここらでちょっと回想シーン入れてみましょう。
 今より一時間ほど前、元旦の午前十時ごろに。


 ◇◆◇◆◇


『あけましておめでとう。今年もよろしくね』
「あけましておめでとうございます、お嬢様。ていうか今朝は随分とお寝坊さんですね」
『しょうがないじゃない。明け方までTVで“年忘れ、朝までドロえもん二十四時間! ポロリもあるよ”を見てたんだもの』

 ふぁーあ、とあくび声をあげながら、お嬢様は緑色のぬめぬめした触手をぴんと伸ばしたりぐねぐねさせたりしています。これがクトゥール人の背伸びなのでしょうか。

「ていうか、ポロリって何がポロリしたんですか」
『……そんなこと、私の口から言えるわけないじゃない』

 こう見えてもお嬢様は純真可憐な乙女なので、真っ赤になって身もだえていらっしゃいます。これはこれで不気味可愛くて見てるだけで正気をなくしそうです。
 ていうかホントに何がポロったのか非常に気になるところですが。

『まあ、それはどうでもいいわ』

 と、お嬢様がずいぶん強引に話題転換しました。

『この星の風習では、お正月には“おとしだま”というものをあげるらしいじゃない?』
「あ、お嬢様お年玉が欲しかったんですか。すみませんご用意してなかったです」
『何を言ってるのよ。“おとしだま”は目上の者が目下の者に渡すものなんでしょ? だったら、私があなたにあげるのが当然でしょう』

 はあ。どうやらお年玉をいただけるようです。
 まあくれるというのならありがたく頂きますが、一応年下のお嬢様からお年玉を頂くのは何やら複雑な気分です。

『じゃあこれ。おーとーしーだー』

 妙に間延びした独特のイントネーションで語りながら、お嬢様は一抱えもある見るからに重そうな鋼鉄の玉を三本の触手で絡め取って持ち上げ――

「そんな二十世紀のボケはいりません」
『……なによ、ノリが悪いわね。もっとちゃんと驚くなりツッコミ入れるなりしなさいよ』

 そうですか。突っ込んで欲しかったのですか。
 では。ごほん。

「なんでやねーん(棒読み)」

 一応ツッコミの振り付けもしましたよ?

『そうそう。それでいいのよ』
「あ、この程度でいいんですか。お役にたててさいわい――」
『って、いいわけないでしょーーーっ! もっと真面目にやりなさーいっ!』

 と、お嬢様は見事なノリツッコミで手にしていた“おとしだま”を力いっぱい床に落とし……もとい、たたきつけ――


 気づいたら、わたしたちはこの見知らぬ世界にいたというわけです。
 以上、回想終了。


 ◇◆◇◆◇


「それにしても、さすがはお嬢様です。まさかおとしだま一つで世界の壁をあっさり越えてしまうとは、予想のはるか斜め上を行かれるお方かと」
『う、うるさいわね。いまはそんなことを言ってる場合じゃないでしょう』
「あと、わたしの気のせいでなければ、あの一瞬、衝撃波で部屋の半分が吹き飛んでいたようにも見えましたけど、あれは誰が片付けるんでしょうか」
『あなたに決まってるじゃない』

 ですよねー。
 まあ、瀟洒で完璧な冥土であるわたしにかかれば部屋の修復など造作もないことですが。むしろ元の世界に戻れるのかどうかということのほうが心配です。

『それより――気づいてる?』
「……わたしたちが、もう追いかけられてはいないことですか?」
『そうよ。ていうか気づいてたのなら止まりなさいよ』
「いえ、お嬢様がまだ走っていらしたので、冥土の職分として並走させていただきました」
『…………まあいいわ』

 ちょっと説明をはしょっておりましたが、先ほどの回想シーンの間も、わたしたちは全力疾走を続けていたのです。
 逃走の常として、人気のないほうないほうへと道を選んで、住宅街のさらに裏側のような、建物すらまばらなところに迷い込んでしまったわけですが、気がつけば、わたしたちを追いかける紺色の制服を着た人々の姿も見られなくなってしまったというわけなのです。

「これは、追手をうまく撒いたと見て良いのではないですか?」

 お嬢様とわたしはどちらからともなく足を止め、ほっと息をついたのですが、

『だといいんだけど……どうも嫌な予感が収まらないのよね。なんというか、誰かのテリトリーに誘い込まれてしまったような……』

 さすがはお嬢様。野生の勘が今日も絶好調です。

『誰が野生なのよっ。私はれっきとした文明人よ!』
「あ、そうでした。お嬢様の姿を見ているとついそのことを忘れそうに」
『……どういう意味よ』

 いえ文字どおりの意味ですが。
 まあ、たとえクトゥール人の文明とわたしたちの文明との間に百万光年の隔たりがあろうと文明は文明です。それにわたしたちの文明などというものはクトゥール人の文明に取り込まれてもはや原形とどめてませんし。

 とまあ、わたしが失われた我らが文明に哀悼の意を示していると――

「うわっ、ホントにいたっ! モンスターいたっ!」

 そんな感傷をやぶり裂くかのようなけたたましい声がその場に響きました。
 もちろんその声はわたしのものでもお嬢様のものでもありません。

 声のしたほうを見ると、前人類の少女が二人、なにか珍しい動物でも見つけたような眼をしてこちらを見ています。
 一人は元気のよさそうなツインテールの少女で、もう一人はロングヘアもまぶしい凛とした美少女です。
 ツインテールの少女はセーターに膝上のミニスカートという快活そうな姿で、ロングの美少女はコートと足首まで届くようなロングスカートという清楚っぽいイメージでまとめています。
 ツインテ子さん(仮名)が、失礼にもあからさまにこちらを指差していますが、おそらくこちらが先ほどの声の主でしょう。

「落ち着きなさいはるか。私が“見た”ことなのですから、いるのは当然でしょう。それとも信じてなかったと?」
「そ、そんなことないけどさほしみちゃん。でも正月早々呼び出されたあげく、あんなキョーレツなもの見ちゃったらびっくりもするってもんでしょ……」

 少女たちはなにやらごにょごにょと語り合っています。内容が微妙に聞き捨てならない気もしますが、それよりむしろわたしは、おにゃのこ二人が並んでいるというその光景に心奪われそうになっていました。
 そうですよ! すっかり忘れていましたが、本来おにゃのこというのはこういう麗しい存在であったはずなのです!
 なのに最近わたしが目にするものといえば、緑色で八本足のおにゃのこ(?)が足を蠢かせてるようなシーンばかりで、たまに前人類のおにゃのこを見るといえばせいぜい食材売り場(ry

『ちょっと……なにぼーっと見とれてるのよ』
「あ、お嬢様、いたんですか」
『な、なによその言い草はっ! 貴方は私の冥土なんだから、主がバカにされたらちゃんと反論しなさいよっ』

 あー。
 確かにモンスターだのキョーレツな姿だの言われてはいい気持はしないでしょうが、んー、まあそうですね……えーと……。

『……なに考え込んでるのよ』
「いえ、いい反論がなかなか思いつかないもので」
『いいから反論しなさいっ!』

 はいはい。

「あー、そこな少女たちや」

 とりあえず友好的に話しかけてみることにしました。
 すると、おにゃのこたちは、はっとこちらを見て、

「言葉をしゃべるからって騙されるもんかっ! こーゆー場合は先手必勝っ!」
「あ、こら、はるか! 様子を見るように“先生”から言われて――」
「そんなの見りゃわかるでしょ! あんな緑のぐにゃぐにゃとか、えろえろ触手系かタコ型宇宙人かのどっちかに決まってるんだから!」

 ずいぶんと短絡的思考ではありますが、それが最短距離で正鵠を射抜いてしまってるところが、なんといいますか、お嬢様ってやっぱり見たまんまなんですよねぇ……。

「お嬢様。えろえろ触手言われてますよ?」
『なっ、わ、私のどこがえろえろだっていうのよ…………』

 お嬢様はほんのり赤くなってくねりくねりと触手と頭部をくねらせます。こういう仕草も、慣れてみれば味があって良いもので――と思ってしまうわたしはもう感性が手遅れなところまで来てしまったのかもしれませんね。

「大気に宿りし精霊たちよ、燃えさかる猛き怒りを持つものよ!」

 と、わたしが刷り込まれた感性に疑問を抱き始めたのと同時に、ツインテールのおにゃのこがなにやら大声を出し始めました。
 ……なんでしょうこれは。魔法でも使うつもりなのでしょうか。もしかしてこれが過去の文献にたまに見られる厨二病というものですか。
 ツインテ子さん(仮名)は両手を天にかざすようなポーズを取って、ノリノリで呪文(?)を続けてます。

「永久(とこしえ)なる契約の印(しるし)に基づき我が命に従え。
 汝の息吹もて、立ちはだかる我が敵を焼き尽くすべし!
 炎の息吹(サラマンダーズ・ブレス)!」

 そう言って、ツインテ子さん(仮名)が振り下ろした手のひらの辺りから、なんとびっくり、本当に炎が勢いよく噴き出しました。
 もしかしてここは魔法使いの世界なんでしょうか。ううむ、並行世界恐るべし!

 しかしまあ、こんな一直線な炎など、われらがお嬢様なら苦もなく避けてしまうことでしょう。と思って傍観してたら、いまだ『えろえろとかまだ私には早いっていうか……』と身をくねらせていたお嬢様に炎が直撃しました。

「あ」

 ていうかまだやってたんですかお嬢様。

 一瞬で、お嬢様の身体は炎に包まれ、周囲には何やら香ばしくも良い匂いが漂い始め……さすがにヤバいんじゃないでしょうか、これ。

 わたしも、おにゃのこ二人もかたずを飲んで燃えさかる炎を見つめています。
 わたしにとってはずいぶんと長く感じられた時間が過ぎ、やがて勢いを弱めた炎が消えたそこには、

『いきなり何をするのよ!』

 何事もなかったかのようにお嬢様が立っていました。
 ま、そんなことだと思いましたが。

「お嬢様、ご無事で」
『ああもう、全然無事じゃないわよ。すっかりお肌が乾燥しちゃった』

 言われてみれば、いつもお嬢様を覆っているぬらぬらした緑の粘液が炎ですっかり蒸発してしまってます。
 加えて、お肌の色合いも紅く色づいて……言うなればそう、きれいに茹であがったタコの色とでもいいますか……。
 お嬢様、ちょっとおいしそうです(食欲的な意味で)。

「うそぉっ! 全然効いてないじゃない!」

 ツインテ子さん(仮名)が悲鳴のような声をあげました。
 まあ、必殺の一撃がお肌をこんがり焼いただけで終わってしまったんですから、叫びたくなる気持ちはわかります。
 しかし――さすがにこの仕打ちは乱暴なのではないでしょうか。
 いまさらながらに、わたしの内に怒りの感情が湧き上がってきました。

「貴女方、おにゃのこだと思って暴言は見逃してあげましたが、さすがにいまのはやりすぎではないですか?」

 わたしの発言に、ツインテ子さん(仮名)はちょっとひるんだ様子を見せますが、すぐに――

「なによ! あなたこそそんなタコ触手の肩を持つわけ? そのタコ触手、人間とか食べたりするんじゃないの?」
「いやまあ、食べますけどね」
「食べるんかいっ!」

 自分で言ったくせに、ツインテ子さん(仮名)がツッコミ入れます。

「じゃ、じゃあなんであなたはそのタコ触手と一緒にいるわけ!? 食べられちゃうんでしょ!?」
「確かに、身の危険を感じることはありますが――」

 わたしはお嬢様にちらりと目をやりました。
 お嬢様は、わたしが何を言うのかじっとこちらのことを見ていらっしゃいます。

「――ですが、身寄りのなかったわたしを冥土として引き取ってくださったお嬢様は、わたしの恩人であり、わたしの主です。
 そのお嬢様に乱暴を働くことはこの私が許しません!」

 地を蹴り、一気にツインテ子さん(仮名)との距離を詰めます。
 わたしだって冥土のはしくれ。聞きわけのないおにゃのこにお仕置きするくらいのことはできるのです。

「くっ! やる気!?」

 ツインテ子さん(仮名)もそれっぽい構えをとりますが、しかしどう見ても隙だらけ。
 どうやら彼女は体術はあまり得意でないみたいですね。好都合です。
 構えを取るだけで何もできないツインテ子さん(仮名)の懐に一気にもぐりこみ――

「あっ! しまっ――!」

 ――とりあえずその両の胸を鷲掴みにしてみました。

「……………………」
「……………………」

 沈黙が辺りに落ちますが、いまのわたしにはそんなこと知ったことじゃありません。
 ふにふにと揉んでみると、意外とボリュームがあることがわかります。しかし、厚手のセーター越しなだけに、正確なサイズを測りかねるのと、おっぱいを揉んでいるという手触り感がいまいち足りない気がするのが惜しまれるところです。

「……………………はっ。な、なにやってんのよあんたーっ!」

 我に返ったツインテ子さん(仮名)が慌ててこちらの手を振りほどこうとします。
 甘い。
 わたしは振り回される彼女の手をするりとかいくぐって、その背後に回り、ツインテ子さん(仮名)を抱きかかえるようにしながら、今度はセーターの裾から右手を入れ、同時に左手をスカートの裾から差し込むと、こう、アレをコレしてふにふにすりすりと――

「わ、わひゃぁぁぁぁーーーーっ!? ちょ、ちょっと!? なに――!?」
「これはお嬢様を侮辱したあなたへのお仕置きです。主に性的な意味で。女同士ですから倫理的にもまったく問題ありません。決して、久しぶりのおにゃのこの姿に興奮して我を忘れているのではありませんのでそこのところはお間違えなく」
「ウソつけーーーっ! どう見ても変態じゃないーーーっ!」

 変態呼ばわりとは非常に心外です。
 くどいようですがこれはお仕置きなのです。むしろ手ぬるいくらいなのです。ということで右手はセーターの下のシャツのボタンを外し、左手はスカートの下の最終防衛ライン突破を図ります。

「やっ、ちょ、まって……やぁ、まってストップ! や! ホントにやなんだってばぁ……ひゃっ! た、助けてほしみちゃぁーんっ!」

 ふひひ、このアマいい声で鳴きやがるぜ。それでこそこちらの気分も乗ってくるというものです。もうこうなったらこのまま一気に行くしか――

『って、何やってるのよ貴女はーーーっ!』
「おごふっ!」

 お嬢様の触手チョップがわたしの延髄のあたりにクリーンヒットしました。
 あまりの衝撃にわたしは首筋を押えてうずくまってしまいます。

「な、なにをなさるのですか。ていうかお嬢様、まだいたのですか?」
『ちょっ、何よその扱い。私のために怒ってくれてたんじゃなかったの?』

 あ、そうでした。

『何、その「あ、そうでした」みたいな顔は』
「いえいえ。もちろんお嬢様の名誉のためにわたしはお仕置きをですね」
『……もういいわ』

 見ると、お嬢様はいつの間にか体の色も粘液も元通りになっています。なんという復元力! アメーバーもブラナリアもびっくりですね。ちょっと大げさでしたか。
 お嬢様は、はぁ、とため息をつくと、おにゃのこ二人のほうを向いて、

『ウチの者がとんだ失礼をしてしまったようで、お詫び申し上げますわ』

 すると、これまでは事態を傍観していたロング子さん(仮名)が、

「いえいえ。こちらこそウチの馬鹿者がとんだご無礼を。この馬鹿者でしたらそちらのお気の済むまで好きにしてやっていただいてもよろしいのですが」

 ものすごくにっこりした笑顔でそう言いました。
 ……一瞬で、おにゃのこに高揚していた気分が、刃物をつき当てられたかのように引いていきます。ロング子さん(仮名)怖ぇ。

「被害者ーっ。ほしみちゃん、あたし被害者ーーっ!」

 ツインテ子さん(仮名)は、乱れた服を直しながら涙目で訴えています。
 こちらこちらで、妙に嗜虐心をそそられるというか……ツインテ子さん(仮名)は天性のいじられ体質のようですね。

「人の言うことも聞かずに先に手を出したのははるかでしょう? むしろ自業自得かと」

 うっ、と言葉に詰まったツインテ子さん(仮名)は、ちょっと斜め下を向いて、つぶやくような小声で、

「ほしみちゃんの鬼、悪魔、陰険女ー」
「はるか。あなたのことまたあちらの方に進呈いたしますわよ?」
「ひぇっ!? そ、それだけはお許しをーーっ!」

 ……何やらわたしはすっかり悪役になってしまいました。「悪い子はいねがー?」とかそんな役どころですか? ひどい偏見だと思います。

「ともあれ、結界の効力はありますが、いつまでもこうしているのも寒いので、私達の『魔女の館』にいらっしゃいませんか? おそらく、お役にたてるのではないかと思います」

 ロング子さん(仮名)がやはり微笑んだままでそう言いました。

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