お嬢様は侵略者

その5『メイドとエ●』

 拝啓、前人類の皆様。
 またまた大変、事件です!

「朝起きて鏡見たら首にエラが生えてた」

 何を言ってるのか分からな(ry

 マッハの速度でお嬢様の下へ参りました。
 今のわたしは肺呼吸に加え、エラ呼吸までできる強者です。ちょっと全力疾走したくらいでは息一つ乱れません!

『どうしたの? そんなに慌てて』
「どうしたもこうしたも無いですよ!? 何なんですかコレェッ!?」
『……あら。立派なエラじゃない』

 いや、それは見れば分かるから。
 わたしが聞きたいのはそういうことじゃないから。

「エラ。そうエラです。伸ばしてエラー。
 昨日までのわたしには無かった代物です」
『そだね』
「そだね、じゃないです。何涼しげな顔してやがるんですか。
 お嬢様がコレやったんでしょ? ねぇ? でなきゃ他に思い当たる節無いですし? ねぇそうでしょう?」
『良いじゃない。エラがあった方が可愛いわよ貴女。何て言うか、その──お魚さんみたいで』

 ハッ。言ってくれますねお嬢様。
 そうですよ魚ですよ。とうとう魚類の仲間入りですよわたし。
 わたしは人間をやめ(ry

「宜しければ、どういう経緯でこうなったのかお聞かせ願いたいのですがッッ……!」
『うーんと。ほら、この前アンタ食べられたじゃないの。三丁目の田中さんトコの坊ちゃんに』
「ああ、はい。クリスマスの時ですね。
 できれば夢オチで済ませたかったのですがそうでは無かったという。
 あの後お詫びに戴いたお茶菓子が美味しかったのを覚えています。それがどうかしたんですか?」
『あの時、助け出した時にはアンタ、半分消化されちゃってたのよ。それでまあ、再生するには血肉が足りないってことで』
「……ってことで?」

 あれあれ。
 何やらにわかに嫌な予感がしてきましたよ?

『私の血をあげたの』
「…………」
『しかしまさか、こんな風になるなんてね。突然変異ってのもなかなか乙なものねー』

 あー。やっぱり、そうなんですね。
 やっぱり……。

「お……お嬢様の」
『ん? どうしたのそんなに青ざめて。
 エラが出来て嬉しい気持ちは分かるけど、メイドの本分を忘れちゃダメよ? 早く朝食の用意をなさい』
「お嬢様の……お馬鹿ああああああああああああああッッ!!!」

 冥土ダッシュ!
 泣きながら飛び出して、音速を超えた速度でわたしはお屋敷中を駆け回りました。それこそ狂ったように。

 無駄に疲れました。


 ◇◆◇◆◇


「──という訳です。何とかなりませんか?」
『何とかって、もしかして元に戻せってこと?』
「もしかしなくてもそうです」

 わたしがそう言うと、医者は『なんだそんなことか』と盛大に嘆息しやがりました。溜息をつきたいのはこちらの方なのですが。

 ──あの後、何とか落ち着きを取り戻したわたしがまず向かったのは、町外れにある寂れた病院でした。
 そこのお医者さんはお嬢様の親戚筋に当たる方で、前にお嬢様が熱を出した時に診て貰ったことを覚えております。

 外見はお嬢様に瓜二つ。いえ、クトゥール人の見かけなんてわたしには判別付かないので、誰も彼も同じにしか見えないのですが。
 強いて言うなら、リボンの代わりに聴診器(っぽい形をした翻訳機)を着けています。

『方法は無くは無いが』
「本当ですか!?」
『その代わりアンタ死ぬよ』

 いや。それじゃ意味無いから。

『じゃあ無理。ゴメンね、他を当たって頂戴。つっても無理だろうけど』
「うわきっぱり言い切られた」
『私達クトゥール人とアンタら旧地球人との歴史はまだ浅いからね。未だにギスギスしてる所もあるし、接触する機会がほとんど無いのよ。だからクトゥール人の細胞を取り込んだ旧地球人がどうなるかなんて見当付かないし、ましてやその治療法なんて分かる訳が無い。
 ……そういう意味じゃ、アンタは貴重なサンプルな訳ね。ちょっと実験に付き合ってみる気無い?』
「謹んでお断り申し上げます」

 冗談じゃないです。
 エラが生えただけでもアレなのに、これ以上身体をいじられてたまるもんですか。

「……帰ります。あまり遅いとお嬢様が心配されますので。
 お邪魔致しました」
『ああ、そうそう』
「はい?」
『あの子なんだけど。人一倍寂しがりやだから、注意してね』
「はぁ」

 帰り際に突然何を言い出すんでしょうこの藪医者は。

『知らないの? ウサギは寂しいと死んじゃうのよ〜』
「あのお嬢様が死ぬ? 無いです無い無い。何言ってるんですか」
『──前に飼ってた子が居なくなった時、あの子自殺しようとしたのよ』
「……ぇ?」

 意外にも真面目な口調で語り始める藪医者。
 雰囲気に呑まれて、わたしも思わず続きを促してしまいます。

『ヤブ言うな』
「そんなことより。前って、わたしの前にも冥土が居たんですか?」
『そうよ。この惑星の生物じゃないけどね。
 ちっこいリスみたいな子で、ちょこちょこ働き回る姿が可愛かったんだけど、いかんせん短命でね。おまけにお嬢の瘴気にあてられて、少しずつナチュラルに壊れていったわ……結局、三年持たなかったわね。
 あの子が死んだ時、お嬢は私の部屋から毒薬を持ち出して服毒死しようとした。幸い、発見が早かったから助かったけどねー。
 あの子もそうだけど、アンタも寿命は私達より少ないんだから。せいぜい長生きしてよね。でないとお嬢、今度こそ死ぬわよ?
 ま。そういう意味じゃ、クトゥール人の遺伝子を取り込んだのは正解だったかも知れないわねー』

 なるほど……そういうことがあったんですか。


 ◇◆◇◆◇


 病院から帰ると、お嬢様が全身を茹蛸みたいに赤くして怒っていました。

『馬鹿はアンタの方よ、バカ。
 どこに行ってたのよ。おかげで朝ご飯食べられなかったじゃないの』
「済みません。すぐに用意しますから」
『待ちなさい。その前に言うことがあるでしょう?』

 ああ。そうですね。

「ただ今戻りました、お嬢様」
『お、おかえりなさい』

 ちょっと。
 何故そこでドモるんですか。

『いや、だって。改めて言うと、何だか恥ずかしくって』
「恥ずかしがる必要は無いです。挨拶をするのは当然です。
 だって、家族なんですから」

 わたしがそう応えると、途端にお嬢様の赤身が増しました。
 同じ赤でも、怒ってるより照れてる時の方が可愛いですね。


 ……家族。
 確かに現在のわたしは、遺伝子レベルで繋がっている分、真の意味でのお嬢様の家族となれたのかも知れません。


 いやそれでもエラは嫌ですが。


 前人類の皆様。
 そんなこんなで、わたしは結構元気にやっております。
 新しい年を迎えるにあたり、色々と不安な要素はありますが。
 来年もどうか、宜しくお願い致します。

 敬具

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